それは、仕事で疲れて帰宅した、ある平日の夜のことでした。玄関のドアを開けると、どこからか微かに水の流れるような音が聞こえます。不審に思いながらリビングを抜け、トイレのドアを開けた瞬間、私は言葉を失いました。トイレの床一面が水たまりになっており、その水は廊下にまでじわじわと染み出してきていたのです。頭が真っ白になり、一瞬、何が起こったのか理解できませんでした。よく見ると、水の発生源はウォシュレット本体のようで、その側面からポタ、ポタ、と絶え間なく水が滴り落ち、床に水紋を広げていました。パニックになりながらも、スマートフォンの画面を濡らしながら「トイレ 水漏れ 止める方法」と必死で検索しました。そこに書かれていたのは「まず止水栓を閉める」という、今思えば当たり前のこと。私は慌てて、便器の背後にある給水管のハンドルを、力の限り時計回りに回しました。すると、滴り落ちる水の勢いが弱まり、やがて完全に止まりました。次に電源プラグを抜き、感電の危険がないことを確認してから、家中のバスタオルをかき集め、床の水を必死で拭き取りました。集合住宅に住んでいたため、階下への被害が何よりも心配でした。幸い、すぐに気づいたためか、階下への影響は免れましたが、もし発見が数時間遅れていたらと考えると、今でもぞっとします。翌朝、私はすぐに管理会社に連絡し、指定された水道業者に来てもらいました。作業員の方の診断によると、原因はウォシュレット内部の、水の流れを制御するバルブユニットの経年劣化とのこと。私の住む部屋のウォシュレットは、入居時から設置されていたもので、すでに10年以上が経過しており、寿命だったようです。修理費用は、部品代と作業料を合わせて約3万円。幸い、備え付けの設備だったため、費用は大家さん負担となりましたが、あの日の精神的な疲労と、いつまた起こるかもしれないという不安は、しばらく私の心に重くのしかかりました。この経験から学んだのは、応急処置の知識がいかに重要かということ、そして、水回りの設備には寿命があり、定期的な点検や、適切な時期での交換がいかに大切かということでした。